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福島地方裁判所 昭和49年(ソ)3号 決定 1975年1月16日

抗告人 井上友一郎

右代理人・弁護士 小川利明

相手方 草野信義

<ほか四名>

主文

本件抗告を棄却する。

理由

第一  本件抗告の要旨は、次のとおりである。

一  白河簡易裁判所は、抗告人を債権者、相手方ら外三名を右債務者とする各不動産の処分禁止仮処分命令申請事件につき、昭和四八年一〇月九日および同月一〇日、債権者(抗告人)に左記の保証を各供託せしめて右仮処分の決定をした。

(1)  債務者草野信義の分

担保金額金六二万円

(白河簡易裁判所昭和四八年(ト)第五号 東京法務局金第九八六九三号)

(2)  同荒川正の分

同金六五万円

(同裁判所同年(ト)第六号 同法務局金第九八六九二号)

(3)  同草野美好の分

同金一〇〇万円

(同裁判所同年(ト)第七号 同法務局金第九八六九一号)

(4)  同荒川栄次の分

同金八六万円

(同裁判所同年(ト)第九号 同法務局金第一〇一九二六号)

(5)  同草野好夫の分

同金五〇万円

(同裁判所同年(ト)第一〇号 同法務局金第一〇一九二三号)

(6)  同草野義信の分

同金三五万円

(同裁判所同年(ト)第一三号 同法務局金第一〇一九二五号)

(7)  同鈴石功の分

同金二七万円

(同裁判所同年(ト)第二二号 同法務局金第一〇一九二四号)

(8)  同草野好家の分

同金八万円

(同裁判所同年(ト)第二七号 同法務局金第一〇一九二八号)

二  ところが、相手方ら外三名はそれぞれ右仮処分決定に対して異議を申立て、白河簡易裁判所は昭和四九年三月二九日、右申立を併合して右各仮処分決定を取消し、債権者(抗告人)の各仮処分命令申請はこれを却下する旨の判決を言渡し、右判決は確定した。

三  その後、抗告人は相手方ら外三名に対する権利行使の催告ならびに担保取消を原裁判所に申立てたところ、右催告期間内たる昭和四九年六月一二日相手方ら外三名は、福島地方裁判所白河支部に抗告人を被告として、前記各仮処分の違法を理由とする損害賠償請求の訴(同庁昭和四九年(ワ)第七五号)を提起したため、原裁判所は、右訴を被担保債権に対する権利行使と認め、抗告人の相手方らに対する担保取消申立をいずれも却下した(同庁昭和四九年(サ)第三〇号、第三二ないし第三五号)。

四  しかしながら、相手方ら外三名の提起した訴の請求金額は総額金三五〇万円であって、これを八等分した金四三万七五〇〇円が各自の請求金額である。従って、相手方らの被担保債権額たる右訴の請求金額は、いずれも抗告人の供託した担保金額に満たないこととなるが、その差額たる残余の担保部分は、次のとおりである。

(1)  相手方草野信義につき 金一八万二五〇〇円

(2)  同荒川正につき 金二一万二五〇〇円

(3)  同草野美好につき 金五六万二五〇〇円

(4)  同荒川栄次につき 金四二万二五〇〇円

(5)  同草野好夫につき 金六万二五〇〇円

そうすると、相手方らは、それぞれ右各担保の残額につき権利行使をしなかったのであるから、この部分についてまで、抗告人の担保取消申立を却下した原決定は失当である。よって、右各担保の残額の範囲内において、原決定を取消し、担保取消をする旨の裁判を求める。

第二  当裁判所の判断

記録によれば、抗告人主張の一ないし三の経緯、および相手方ら外三名が権利行使として、提起した訴は、抗告人に対し前記仮処分によって被った各種の損害のうち、とりあえず仮処分異議に要した弁護士費用金三五〇万円とこれに対する訴状送達の翌日以降完済まで年五分の割合による遅延損害金とを相手方ら外三名(八名)に支払うことを求めるものであること、が明らかである。

したがって、右権利行使の訴における各自の請求額は、一応請求総額を八等分した金額になるものと解されるが、右遅延損害金についても、相手方らの担保権が及ぶことはいうまでもないから、これをも含めると、現段階において相手方ら各自の請求にかかる被担保債権の額、したがってこれを超える担保の残額についても、その算定は困難といわざるを得ない。のみならず、相手方らの有する被担保債権の存否および範囲は、右訴訟において確定されるところ、相手方らは、特に一部請求である旨を明示して訴を提起したのであるから、後日右請求を拡張することは十分に予想され、したがって、当該訴訟において、担保の残額についても、被担保債権の存在が確定される可能性が存し、その意味では権利行使の著手があったものということができよう(このような場合に、担保の残額につき担保権利者が担保取消に同意したものと擬制するのは妥当でないと考えられる。)。すなわち、相手方らが右のような訴を提起することにより、担保金額全体につき権利行使があったものと解すべきである。

してみれば、本件担保取消申立を却下した原決定は相当であるから、民事訴訟法四一四条・三八四条一項により本件抗告を棄却することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 佐藤邦夫 裁判官 岩井康倶 佐藤道雄)

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